東京地方裁判所 昭和44年(ワ)5315号 判決 1971年10月07日
原告 国方花子
右訴訟代理人弁護士 渡辺良夫
同 四位直毅
同 南元昭雄
被告 重豊寛実
右訴訟代理人弁護士 木宮高彦
同 菊地仙治
同 伊藤重勝
被告 浜野弘行
右訴訟代理人弁護士 野島達雄
同 大道寺徹也
右訴訟復代理人弁護士 高橋孝信
主文
被告らは各自原告に対し金六一二万七七五一円および内金五六七万七七五一円に対する昭和四四年八月八日以降、内金四五万円に対する昭和四六年一〇月八日以降各支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その余を被告らの、各負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一 被告らは各自原告に対し金一九七五万三八七二円および内金一七八五万三八七二円に対する昭和四四年八月八日以降、内金一九〇万円に対する第一審判決言渡の日の翌日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二請求の趣旨に対する答弁
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第三請求の原因
一 (事故の発生)
原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によって傷害を受けた。
(一) 発生時 昭和四三年三月六日午後一一時四五分頃
(二) 発生地 東京都港区北青山三丁目五番八号先青山通り
(三) 加害車(A) 自家用小型乗用車(以下「加害車(A)」という。)
運転者 被告浜野
(四) 加害車(B) 自家用小型乗用車(以下「加害車(B)」という。)
運転者 被告重豊
被害者 原告(加害車(B)に同乗中)
(五) 態様 加害車(B)は渋谷方面から青山一丁目方面に向い進行中、同一方向に進行し、右折しようとした加害車(A)と衝突した。
(六) 原告の傷害の部位程度
頭部 顔面挫創等
(七) 原告の後遺症は次のとおりであって、これは、自賠法施行令別表等級の七級一二号に相当する。顔面に著しい醜状
≪以下事実省略≫
理由
一 (事故の発生)
(一) 本件事故の発生に関する請求の原因一の(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。
そこで、まず本件事故の態様について検討する。≪証拠省略≫をあわせると、本件事故現場は巾員約三〇メートル(車道部分)の歩車道の区別があり、中央部分に都電軌道の設置されている見通しのよい通称青山通りと呼ばれている道路上であるところ、被告浜野は右道路の北端の別紙図面①の地点で暫く停車した後、渋谷方面に行くため、方向転換(Uターン)しようと同所で自車の後方(渋谷方面)を確認したところ、二台の自動車が近づいて来るのを見付けたが、自動車との距離がかなり離れていて、自車を方向転換するについて衝突の危険はないものと考え、その後は渋谷方面の安全を確認することなく、専ら青山一丁目方面からの対向車を見ながら時速約一〇キロメートルの速度で、別紙図面①の地点から②の地点に向い進行中、渋谷方面から時速約五〇キロメートルで進行してきた加害車(B)(別紙図面の位置)の前部が自車の右側面に衝突した(別紙図面×点)こと、被告重豊は加害車(B)を運転し、原告を同乗させて、前記青山通りを時速約五〇キロメートルの速度で進行していたが、左前方数メートルの地点を進行中の先行車が急に進路を左に変えた直後に、自車の進路の左から右に向い進行して別紙図面②地点にきた加害車(A)と別紙図面点で衝突したため、原告は頭部を前面ガラスにうちつけたことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫
(二) 原告の傷害については、原告と被告重豊との間においては争がないが、被告浜野において争っており、原告の後遺症については両被告が争うので、次に原告の傷害および後遺症について判断する。≪証拠省略≫、原告の昭和四三年五月頃の写真であることにつき争のない甲第一五号証の四〇、原告の昭和四六年六月頃の写真であることにつき争のない甲第一六号証の一ないし四および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故により頭部・顔面挫創、下肢挫傷、右上犬歯(L3)歯根部歯牙破折の傷害を負わされ、その治療のために、昭和四三年三月七日から同二三日までの間と同年七月一〇日から同月二三日までの間入院したほか、同年三月二四日から同年九月五日までの間(実治療日数二一日間)、同月九日から同四四年四月二日までの間(実治療日数一六日間)および同年一二月一八日から同四五年三月三日までの間(実治療日数一六日間)にわたり通院したが、原告の顔面には、未だに額部、鼻背、右上眼瞼、右頬、上口唇等に線状瘢痕(最大のもの七センチメートル)の後遺症を残していることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 (責任原因と免責の抗弁)
被告両名の運行供用者責任に関する請求の原因二の事実は、いずれも当事者間に争がない。
そこで、被告浜野の免責の抗弁について検討すると、前記認定一の(一)の事実によれば、被告重豊に前方注視義務違反および車間距離保持違反の重大な過失があったことが明らかであるばかりでなく、被告浜野にも右後方の充分な確認をしないで転回しようとした過失があることが明らかである。してみると、被告浜野のその余の主張について判断するまでもなく、その自賠法三条但書に基づく免責の抗弁は理由がないことに帰するから、採用することはできない。
三 (損害)
そこで、以下原告の損害について検討する。
(一) 逸失利益 六一一万二二五一万円
≪証拠省略≫を総合すると、原告は本件事故当時一八才の未婚の女性で、株式会社ニューラテン・クォター(キャバレー)にホステスとして勤務し、年間一五七万八〇〇〇円を下らない収入を取得していたが、経費としてチップ等の副収入(平均月約五万円)でまかなうもののほかに年間約三〇万円を支出していたので、その年間純収益は一二七万八〇〇〇円程度であったことが認められ、右認定に反する証拠はなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。ところが、≪証拠省略≫に前記一の(一)において認定した原告の傷害に関する事実を併せ考えると、原告は本件事故による受傷のため、前記勤務先のキャバレーのホステスを辞めて、前記傷害の治療をうけ、その間休業したが、昭和四三年九月から同四四年二月まで稲葉会計事務所に事務員として勤務して月額約二万二〇〇〇円の給与を取得したほか、昭和四五年一月から八月までノース・アメリカン航空株式会社に事務員として勤務して約二万八〇〇〇円の月給を取得し、さらに昭和四六年二月以降杉浦商事株式会社の事務員として勤務して約四万二〇〇〇円の月給を得ていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、原告の本件事故時以降昭和四三年八月末日までの右休業は、前記傷害の程度および転職準備期間等を考慮すると、本件事故と相当因果関係に立つものということができ、その間の損害は、原告の前記純収入を基礎にして算定すると、六二万三一七八円(一日当り三五〇一円として一七八日分)となる。次に原告の昭和四三年九月以降の後遺症に基づく逸失利益について検討する。およそ後遺症に基づく労働能力低下による財産的損害の算定においては、事故前後の収入の差額をもって直ちに損害額と認めるのは相当因果関係の見地から妥当でなく、むしろ、被害者の後遺症の部位・程度、職業、転職の必要性、事故前後の稼働状況、将来の見通し等を総合勘案して労働能力喪失の程度を認定して損害を算定すべきものと考える。そこで、原告についてこれをみてみると、原告本人尋問の結果によれば、原告が事故前従事していたキャバレー・ホステスとしては職業上容貌が非常に重要な意味をもつうえ、客の接待の際には客と接近して話などをする必要があったことが認められるから、原告が後遺症として前記のような顔面醜状を負わされた以上、従前のようなホステスの職業を継続することは主観的のみならず客観的にも困難というほかない。したがって、原告が本件事故後事務員に転職して、前記程度の収入をあげるにとどまったことは、本件事故と相当因果関係にあるものということができる。また、キャバレーのホステスが少くとも三〇才位までは事務員よりも相当高い収入を取得しうることは公知の事実であり、原告本人尋問の結果によると、原告の前記勤め先におけるホステスの平均年令もほぼ三〇才程度であることが窺われるから、原告も、本件事故に遭遇しなかったならば、その容貌、事故前の稼働状況等からして、少くとも前記の昭和四三年九月からほぼ三〇才に至るまでの一一年間にわたり平均して前記程度の年収を取得しえたものと推測することができる(原告の収入が漸減する余地もないとはいえないが、この点は後記の労働能力喪失率の認定にあたり考慮することにする。)。そして前記認定の原告の後遺症、事故前後の稼働状況および収入等からすると、原告は本件事故による後遺症によって右の一一年間にわたりその稼働能力の五〇パーセントを喪失したものと推認することができる。そこで、右期間中の労働能力低下による損害全額を、原告の遅延損害金の起算日より前である昭和四三年九月一日に一時に支払いをうけるものとしてホフマン複式(年別)計算法により年五分の中間利息を控除して算定すると、その現在価は、計算上五四八万九〇七三円となる(その算式は別紙計算式のとおりである。)。
(二) (慰藉料)
前記認定の本件事故の発生事情、原告の傷害の程度、治療状況、後遺症状、原告が本件事故当時一八才の未婚女性であったこと、その他諸般の事情を総合すると、本件事故により原告が蒙った精神的損害は、金一六〇万円をもって慰藉するのが相当と考える。
(三) (損害の填補)
以上のとおり、本件事故と相当因果関係にある原告の損害は金七七一万二二五一円となるところ、原告が、本件事故による損害に関し、既に自賠責保険金一二五万円の給付をうけ、被告重豊より金八八万四五〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、これを前記賠償額より控除した金五五七万七七五一円が原告において被告らに連帯して支払を求めうる金員である。
(四) (弁護士費用)
以上のとおり、原告は金五五七万七七五一円の損害賠償金の連帯支払を被告らに求めうるところ、≪証拠省略≫によれば、被告らはその任意の支払をしなかったので、原告はやむなく弁護士である原告訴訟代理人にその取立を委任し、右弁護士に手数料として金一〇万円を支払ったほか、成功報酬として一九〇万円を第一審判決言渡後に支払う旨約定していることが認められ、右認定に反する証拠はない。しかし、本件事案の難易度、審理の経過、認容額等に照らすと、原告が被告らに負担を求めうる本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当分は、金五五万円であって、これをこえる部分まで被告らに負担を求めることはできない。
四 結論
以上判示の理由により、原告は被告らに対し本件事故による損害賠償として、金六一二万七七五一円およびこれより未払弁護士費用を控除した内金五六七万七七五一円に対する事故発生の日以後の日であることが明らかな昭和四四年八月八日以降、未払弁護士費用四五万円に対する本判決言渡の日の翌日にあたる同四六年一〇月八日以降各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯しての支払を求めうるので、原告の本訴請求を右の限度で認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤和夫)
<以下省略>